周防大島の段々畑で、昭和 30 年ごろからみかんを作っています。
以前は農協に出荷していました。農協に出すと、収穫する日も、使う薬や肥料の種類・量・撒く日も、決められた通りに作ることになります。もっとおいしいみかんを作りたくて、農協への出荷をやめ、作り方を自分たちで決めるようになりました。本を読み、畑で試し、よかったやり方を続けてきました。
収穫前の 2 か月は、病気や虫を防ぐ薬をかけないこと。実が熟すまで、木の上で待つこと。どちらも、多くのみかん畑ではしないことです。それができるのは、土地を選び、土を育て、木を手入れしてきたからです。その順に書きました。
- 日当たりと水はけのよい畑を選ぶ
- 堆肥を自分で作る
- 昔は海水、いまは海藻
- 枯れて土に還る草を育てる
- 枝を切る、実を摘む
- 収穫前の 2 か月は、木にも実にも薬をかけない
- 熟すまで、木の上で待つ
- 収穫してから 7 日ほど、倉庫で休ませる
日当たりと水はけのよい畑を選ぶ
みかんの味は、どこで育つかで大きく変わります。日をたくさん浴びた葉ほど、多くの糖を作ります。水はけがよく、夏の終わりから秋にかけて土が乾き気味になると、その糖が実にたまっていきます。反対に、日陰や水のたまりやすい畑では、どれだけ手をかけても甘くなりにくいのです。
周防大島は「瀬戸内のハワイ」と呼ばれる暖かい島で、山口県のみかんの約 8 割がここで作られています。海に向かって段々畑が続き、斜面の畑は日をよく受け、雨水は下へ抜けていきます。
その段々畑の中でも、持っている畑から特に日当たりと水はけのよい場所を選び、木を少しずつ移してきました。植え替えた木は、実をつけるまでに約 4 年かかります。そのあいだ、その木からは一つも収穫できません。
それでも移すのは、みかんの木がこの先何十年も実をつけるからです。4 年待ってでも、いちばんよい場所で育てる。すぐには結果の出ない、時間をかける仕事です。

堆肥を自分で作る
牛ふんと木くずを混ぜ、じっくり寝かせて堆肥にし、畑に入れています。
堆肥を入れた土は、ふかふかになります。土の中にすき間ができて空気と水がほどよく通り、みかんの細い根がよく伸びます。水や養分を吸い上げるのは、この細い根です。根が張れば木が元気になり、木が元気なら、実の味がのります。
堆肥で大切なのは、よく熟していることです。熟していない堆肥を入れると、かえって病気や虫を呼び、実の色づきや味を落とします。材料の組み合わせも寝かせ方も、本を読み、畑で試しながら確かめてきました。自分で作れば、確かめたものだけを畑に入れられます。
場所も時間もかかるので、堆肥から自分で作るみかん農家は多くありません。実をおいしくする前に、まず土と木を健康にする。この畑のみかん作りは、土から始まります。
昔は海水、いまは海藻
昔は、満潮の時に海から海水を汲んできて、薄めて畑に撒いていました。海水には、たくさんのミネラルが溶けています。海の恵みを畑に入れると、みかんの甘さとコクが増す。この畑は、それを長い年月をかけて確かめてきました。
いまは、同じ海の恵みを、海藻の肥料「アルギット」で畑に入れています。ノルウェーのフィヨルド(氷河が削ってできた入り江)で、白夜の夏と氷点下 40 度の冬を越えながら、4 年ほどかけて育つ海藻を粉にしたものです。
アルギットには、ミネラルやビタミンなど 60 種類以上の成分が含まれています。畑に撒くと、土の中のバクテリアや酵母など約 600 種類の微生物が増えて、土が生き生きとします。化学肥料の使いすぎや、同じ作物を作り続けて疲れた土を立て直し、根や幹を太く、実を大きく、味と香りを濃く、日持ちをよくする肥料です。
ふつうの肥料よりずっと高価ですが、この畑では長年使い続けています。海に囲まれた島のみかんです。海の力を借りるのは、昔もいまも変わりません。

枯れて土に還る草を育てる
みかんの木の下には、わざと草を生やしています。やわらかく、伸びきると自然に枯れて、地面に倒れる草です。
倒れた草は、敷きわらのように地面を覆います。強い日差しや大雨から土を守り、土が流れたり乾きすぎたりするのを防ぎます。ほかの雑草も生えにくくなります。やがて草は分解されて、土の養分になります。草を育てることが、そのまま畑の中で肥料を作ることになっているのです。
草の中には、クモなど、みかんの害虫を食べる虫がすみつきます。土の中では小さな生きものが増え、土はさらにやわらかくなります。
おいしいみかんのために土をよくしていったら、草が育ち、生きものが増え、畑そのものが豊かになってきました。おいしさを追いかけることが、そのまま畑の自然を育てることにつながっています。

枝を切る、実を摘む
剪定(せんてい。枝を切って木の形を整えること)と、摘果(てきか。実を間引くこと)。どちらも、みかん農家なら毎年必ずやる仕事です。ただ、同じ作業でも、やり方ひとつで実の味は大きく変わります。
剪定では、木の内側まで日が当たるように枝を切ります。切りすぎると、木は実をつけるより枝を伸ばすことに力を使い、実が減ります。切らなさすぎると木の中が暗くなり、実は甘くならず、病気も出やすくなります。どの枝を残すかは、木ごとの元気さと、その年にどれだけ実がつきそうかを見て決めます。
摘果では、残す実を選びます。実をならせすぎると小さな実ばかりになり、次の年の実がぐっと減ります。減らしすぎると、大きくても水っぽい実になります。本には「葉 25 枚に実 1 つ」といった目安が書かれていますが、実際には木ごと、枝ごとに違います。太い枝に上を向いてついた実は、大きくなりすぎて皮があらく、味が薄くなりがちです。細い枝から下にさがった実は、甘く締まった実になります。小さな実や傷のある実は早いうちに摘み、残した実に養分を集めます。
実を落とす薬(摘果剤)は使いません。どの実を残すかを一つずつ見て、手で摘んでいます。何十年とみかんの木を見てきた家族が、自分たちの手でやっている仕事です。

収穫前の 2 か月は、木にも実にも薬をかけない
みかんの病気や虫が多いのは、雨の多い春から夏です。この時期は、必要な薬を撒いて木と実を守ります。そして収穫が近づき、実が仕上がっていく最後の 2 か月は、病気や虫を防ぐ薬を、木にも実にもかけません。
多くのみかん畑では、収穫の直前まで薬を撒きます。秋の雨で広がる病気を防ぎ、出荷したあと箱の中で実が腐らないようにするためです。薬を止めれば、その危険は自分たちで引き受けることになります。だから薬の代わりに、次の手間をかけています。
- 病気のもとを残さない皮に黒い点をつける病気(黒点病)は、枯れ枝にすむ菌が、雨のたびに飛び散って広がります。剪定では木の中の枯れ枝を残さず切り落とし、切った枝はシュレッダーで細かく砕いて畑に撒きます。細かく砕いた枝は病気のもとにならず、やがて土に還ります。
- 雨のあと、すぐに乾く木にする枝をすかして風を通し、濡れた葉や実が早く乾くようにします。菌は、濡れたままのところで増えるからです。
- 害虫を食べる虫に助けてもらう木の下の草にすむクモなどが、みかんの害虫を食べてくれます。
- 実に傷をつけない実が腐る原因の多くは、小さな傷から入るカビです。収穫は一つずつはさみで切り、傷をつけないように扱います。
収穫したあとも、ワックスや防腐剤は使いません。
手でむいて、そのまま口に入れる果物です。実が仕上がる最後の 2 か月は薬をかけずに育て、そのままの姿でお届けしたい。そのための手間です。
熟すまで、木の上で待つ
みかんは、木になったまま置くほど甘くなり、酸味がやわらいでいきます。葉で作られた糖が実にたまり、酸が少しずつ抜けていくからです。
それでも多くの畑では、熟しきる前に収穫します。出荷の日取りが先に決まっていることに加えて、木に長く置くほど、実を傷める危険が増えるからです。
- 皮が浮く色づいたあとに暖かい雨が続くと、皮だけが育って、実との間にすき間ができます。味が落ち、傷みやすくなります。
- 実がすかすかになる長く置きすぎると、実の中の水分が抜けて、パサパサになります。
- 寒さで傷む冬の寒波に当たると、実が凍って傷みます。
待つほど甘くなり、待ちすぎれば実を傷める。その境目を、その年の天気と実の様子を見ながら、これまでの記録と照らし合わせて見極めます。何十年も続けてきた見極めです。
熟すまで待つのは、この畑の信念です。農協への出荷をやめたのも、収穫する日を自分たちで決めたかったからです。

収穫してから 7 日ほど、倉庫で休ませる
収穫したみかんは、その日のうちに箱に詰めるわけではありません。まず倉庫に運び、7 日ほど休ませます。そのあと選果機にかけ、それから箱に詰めます。
採ったばかりのみかんは、皮に水分をたっぷり含んでいます。実は収穫したあとも呼吸を続け、水分を出しつづけます。そのまま箱に詰めると、箱の中が蒸れて、皮が浮いたり、実が腐ったりしやすくなります。だから先に休ませて、皮の水分をほどよく抜いておきます。みかん作りで「予措(よそ)」と呼ばれる、仕上げの工程です。この 7 日には、次の働きがあります。
- 皮が強くなる水分が抜けた皮は、やわらかく弾力が出て、強くなります。箱に詰めて運ぶあいだにぶつかっても、破れにくくなります。
- 傷から腐りにくくなる収穫のときに小さな傷がついても、皮が乾くと、そこから腐りにくくなります。
- 実のみずみずしさが保たれる皮を先に乾かしておくと、中の果肉の水分が、皮にとられにくくなります。
- 傷んだ実を、箱に入る前に除ける傷から入ったカビは、目に見えるまでに日数がかかります。採ってすぐ箱に詰めれば、その実は箱の中で傷みはじめ、まわりの実にもうつっていきます。休ませてから選果すれば、そのあいだに傷みが出た実を、箱に入る前に取り除けます。
休ませ方には加減が要ります。風が通らなければ湿気がこもって、かえって実が傷みます。乾かしすぎれば、実がやわらかくなりすぎて、味が落ちます。山口県の果樹の栽培指針には、早生みかんは収穫してから 4〜6 日休ませて出荷する、と書かれています。この畑では、7 日ほどです。
みかんの甘さは、木の上で決まります。糖は収穫したときがいちばん多く、そのあと増えることはありません。だからこの畑は、熟すまで木の上で待ちます。収穫したあとの 7 日は、木の上で仕上げた味を、傷めずに食卓まで届けるための時間です。
選果では、傷んだ実を除き、選果機で大きさごとに分けます。2S、S、M など、大きさを選んでご注文いただけるのは、ここで粒をそろえているからです。
収穫前の 2 か月は薬をかけず、収穫したあともワックスや防腐剤を使わない畑です。箱の中で実を守るのは、傷をつけない収穫と、倉庫での 7 日と、選果です。10kg の箱は、食べきるまでに日数がかかります。箱を開けた日だけでなく、最後の一つまでおいしく食べていただけるように、採ってから箱に詰めるまでに 7 日をかけています。

